イベントシナリオ第8回リアクション

 

『最期の晩餐Burst!!』

 

 第1章 厨房は大忙し!

 カヤナ・ケイリーが鍋を前に、食材を指さし確認する。ひとしきりのものは揃ったが、これだけの量、どうやって調理するかが問題だ。……そこに、2つの人影が近付いていく。
「よぅ。手伝いに来たぜ。これならいつぞやの野菜の皮剥き競争もできそうだし」
 クロイツ・シンは口元に微笑みをたたえている。
「これは差し入れです。ハーブもどうぞ」
 メイド服姿のステラ・ティフォーネは、釣り上げた魚と、手摘みの香草を携えていた。
「……料理のお手伝い?」
「ま、そういうとこだな」
 クロイツはそう言うと、メニューリストを覗き込む。
「どれどれ……こりゃ、手数も多そうだな……」
「うーん、何とかなるとは思うんだけど」
 カヤナが調理場を見渡す。
「頑張りましょう」
 ステラが小さく口元に笑みを浮かべると、2人はそれぞれにうなずいた。

 まずはカヤナがソルベの上にかけるクランベリーソース作りに着手。同時並行で、クロイツが青菜を一口大に切っていく。ステラは、自分で差し入れた魚のワタを取り、塩釜焼を作る。
「しかし」
 ステラがぼそりとつぶやいた。
「こうして料理をさせてもらうことが多かったですね……」
 彼女はこれまでの出来事の1つ1つを振り返るように、ゆっくりと、言葉を反芻しながら紡いでいく。
「私も、皆さんのお役には立てたのでしょうか」
「もちろん!」
 カヤナが横から微笑みを投げる。
「おいしい料理は、みんなの元気の源、でしょ?」
 カヤナは手を止めることなく、食材と向かい合ったままだ。けれど、その表情は自信に満ちているように見える。
「……はい」
 ステラはそれに応えるように、大きくうなずいて、オーブンの扉を閉めた。
「しかし、相変わらず手際がいいね」
 カヤナがクロイツにそう声をかける。
「両親が洪水の前に水難事故で死んじまったからな。その辺が大きいかもな」
「主夫なのですか?」
「主夫って言うな、未婚だ」
 ステラのツッコミに拗ねると、カヤナがそれをおかしそうに笑った。
「それじゃあ」
 どんっ、と重たい音を立てて、カヤナが彼の前に冬瓜を置いた。そしてそれを真っ二つに切る。
「『未婚の旦那さま』の、お手並み拝見といきますか!」
「……ああ」
 いつか話した野菜の皮むき競争の話。冬瓜は皮を厚く剥いたほうがいい。煮崩れを起こしやすい食材なので、面取りもきっちり行う必要がある。
「……行きますよ」
 競争の気配を察知して、ステラが2人の顔を見る。
「位置について、よーい……スタート」
 彼女の掛け声を合図に、2つの包丁が勢いよく切り込みを入れる。クロイツの手に持った冬瓜から皮が外され、瞬く間に種が外されていく。カヤナも負けてはいない。四角く切り出された白い果肉の角を、大きな包丁を器用に使って、するすると落としていく。
「早いっ……!」
 そのテクニックに、見ていたステラも思わず息をのむ。……果たして、結果は……!
 バンっ、と包丁をまな板に置く音が、同時に2つ聞こえる。
「……同時……!」
 そして、その切られた冬瓜たちの見た目も、同格。
「……やるわね」
「お前もな」
 クロイツは、ふっ、と笑って、冬瓜の皮を集める。
「その冬瓜の皮、もらってもいい?」
「……構わねぇが……どうした?」
「浅漬けを作ろうかなと思って」
 カヤナが目を伏せ、微笑む。
「フルコースには出せないけど……食べる?」
「……あっ、ああ……」
 思わず動揺が言葉に漏れて、クロイツは表情を強張らせる。ステラは時計を見て、「塩釜焼が焼き上がるには、まだ早いですよ」と言い、少しだけ頬をほころばせた。


 第2章 魚、酒、酒、肉、酒、酒!

 時間は、昼間にさかのぼる。
「……釣りが出来るのですか?」
 シャオ・ジーランは、池のほとりでコタロウ・サンフィールドに話しかけている。「出来るのか」と聞いておきながら、すでに彼は釣竿のようなものを用意してきていた。『ような』というのは、それが先ほどシャオの手によって作られたものであることに起因している。多少しなりのある棒切れと、網の廃材をバラして作った恐ろしいほど太い糸。その先端に括りつけられたのは、重り代わりの石と、力づくで曲げた縫い針。エサは畑でのんびりしていたミミズを数匹。……これで釣りをしようというのだから、驚きである。
「出来るよ……普通の釣竿なら、ね」
 見ると、コタロウの釣りあげた魚が2匹、水を張った桶の中でゆったりと泳いでいる。今晩には人間の腹の中に納まるとも知らず、優雅なものである。
「たくさん釣れるってわけじゃないけど、粘れば1匹くらいは釣れると思う」
 コタロウはシャオの釣竿を見て「使うかい?」と自分の釣竿を差し出したが、シャオはそれを丁重に断る。
「それじゃ、一足先に会場に向かうから」
 コタロウは桶を持つと、シャオに軽く頭を下げた。シャオは彼に大きく手を振ってその背中を見送り、それから池に針を落とした。
「さーて、何が釣れるか」
 当然ながら、すぐにヒットとはならない。ここからどれほど待つか、それさえも彼には分からない。暗くなる前に釣らないと、パーティーに間に合わないが……。
 そこから、1時間が経ち、2時間が経った。最初はしっかりと竿を握っていたシャオも、途中から飽きてしまったのか、湖畔の平らな岩に腰かけて、ぼんやりと池の表面を眺めていた。アタリの様子はない。
 3時間。居眠りをはじめる。
 4時間、夢の中。
 5時間。居眠りからさえ目覚めるが、アタリが来ている様子はない。
「んー、ダメか」
 糸を回収しようとするその手を、竿ごと池の底へと引きずりこもうとする強烈な力が働いた。
「きましたっ!」
 ようやく巨大なアタリである。それも、とんでもなく大物の予感。この竿が普通の釣竿だったら、折れてしまっていたかもしれないほど。
 そこからさらに半刻に及ぶ激闘の末、シャオは50センチほどもあろうかという鯉を釣り上げることに成功した。
「からあげ!」
 彼はにっこりとほほ笑んで、それで彼の故郷の料理「糖醋鯉魚(タンツーリーユイ)」を作ることを想像したのである。

 シャオがログハウスへと向かってきているころ、フレン・ソリアーノによる焚火、そして酒宴の用意は着実に進んでいた。木炭交じりの薪はパチパチと音を立ている。金網は十分な熱を持って、肉や野菜が載せられるのを待っていた。
「肉だー! 酒だー! バーベキューだ!」
 ラトヴィッジ・オールウィンは火を前に、心を躍らせる。皿には、大葉と梅肉を混ぜ込んだ俵型おにぎり。これに生肉を巻いてタレを付け、焼く。想像しただけで唾液が溢れてくる。
「フレンさんも、よければどうぞ」
「ああ、いや、俺はこれがあるから」
 彼は片手に琥珀色の液体をもって、顔を赤くしている。乾杯前に、1人で始めてしまっていたらしい。
「あっ、ズルい!」
 そう叫んだのはトゥーニャ・ルムナ。空のコップを手にし、それ以上は何も言わず、ただそれをフレンの前に突き出した。フレンは、そのコップと彼女の顔を交互に見て、それから「聞くのも野暮か」と言って酒を注いでやる。
「そうそう! 待ってましたぁっ! それじゃあみんな、カンパーイっ!!」
 叫ぶようにそう言って、彼女は杯を天高く掲げた。何をくれ、とは言わずに差し出させる技は、確かに高等なテクニックであった。彼女は次々と人が金網に乗せていく食材を横目に、杯を傾け、それを一気に体の中へと流し込んでいく。
「かはぁっ……うまい! もう1杯!」
 彼女はフレンに杯をまた差し出して、ニッコリとほほ笑む。
「ほどほどにしときなよ」
 ヴァネッサ・バーネットは横から声をかける。彼女もまたお酒を飲み始めてはいるのだが、その速度はトゥーニャの半分以下。それでも充分早いのだが……。ヴァネッサは食材を串に刺し、網の端のほうに並べていく。だが、すでに肉の串と野菜の串は、その場にいる酒飲みたちの腹に溜まっていっている。
 彼女はちらりとフレンを見る。思えば、フレン男爵と同じく、裏方に回ることのほうが多かったな、とそんなことを思ったのだ。
「今日は、たくさん飲んで、たくさん食べて、たくさん笑おう」
「ええ」
 ヴァネッサの言葉に、岩神あづまがうなずいた。
「あたし、普段はおもてなしをする立場ですから……こうして座っているだけでお料理もお酒もいただけるなんて素敵ですね。たまにはこういうのも悪くないです」
 あづまもにっこりと笑って、フレンに空の杯を差し出す。
「お前、もう5杯目じゃないか?」
 フレンはそう言いながら注ぐと、「まだ5杯目じゃありませんか」と彼女は返した。
「フレンさん、飲むなら焼く係は代わりますよ」
 そう声をかけたのは、トモシ・ファーロ。彼は「さ、どうぞどうぞ」とフレンを追い立てる。
「お前はいいのか、飲まなくて」
「あ、いや、俺はいいです」
 トモシは苦笑いを浮かべる。
「お酒飲むと、危険な人になるらしくて……よく分かんないんですけど」
「あー……」
 肯定も否定もしない言葉でフレンは曖昧にうなずくと、「それじゃあ、頼もうか」と場所を譲った。
 酒で盛り上がる金網の対角線では、ピア・グレイアムがパンをグリルしている。もちろんベーカリー・サニーで焼きあがったものだ。焼けるにつれ、香ばしい小麦の香りがあたりに漂う。それを1つ手に取り、彼女は真ん中に切れ目を入れて、甘く火の通った野菜と肉を挟み、もう一度網の上へ。即席のサンドイッチである。
 その匂いにつられてやってきた男がいた。バート・カスタルである。彼は屋外の見張りをしているために、その匂いを避けることはできない。そのうえ昼過ぎから何も口にしていないのである。脂が炭に落ちる匂いと音、それに小麦の香りとなれば、もう我慢ならなかったのだろう。
「食べますか?」
 ピアが微笑みかけると、「悪い」とバートははにかんだ。
「どうぞ座ってください」
「いや、警備の仕事もあるから、それは」
 バートが首を柔らかく振るので、彼女は立ち上がって、彼の横へと並んで立った。
「やっぱり、野菜よりもお肉のほうが好きですか?」
「いや、こう見えてどっちも好きだよ。バランスが大事」
「それならちょうどよかった」
 ピアはほほ笑んで、さっきのサンドイッチを皿にのせると、バートへと手渡す。
「ありがとう」
 受け取ったバートは、大きな口でそれにかぶりつく。サクっ、という軽い音がして、パンの内側から爽やかな野菜の歯ごたえと、はじけんばかりの肉汁が滴る。
「うまぁっ……!」
 思わずそう呟いて、すぐにもう1口。あっという間に彼は胃袋の中にそれを収めると、にっこりと笑った。
「こんなにうまいもの、もらっちゃって悪いなあ……」
「それはよかったです」
 彼の笑みを見て、思わずピアも微笑み返してしまう。……だがふと、彼女の頭の中に、寂しい予感が走った。
「……今日のこと、ずっと忘れないでいたいですね」
「ん?」
「あ、いえ……」
 このテーブルを囲んでいる人の中にも、ここから旅立つ人がいるのかもしれない。そう思うと、もっと一緒にいたいような、それでいて、ここから出てそれぞれの幸せを目指していくのがいいような、そんな気持ちになったのだ。
「皆、どこにいても、無事でありますように……」
「うおおおい! バートっ! 飲んでるかぁ!」
 その空気を突き破るような声をあげたのはトゥーニャ。彼女は酒が詰まったボトルをバートに差し向けている。
「いや、俺は警備があるから酒は……」
「うるせーっ! 『オレ』の酒がのめねーってのかぁーっ!」
「そんなキャラじゃなっ……うぉっ!?」
 悪い笑みを浮かべる。バートの両腕が、体幹に向かってぎゅっと押し付けられた。
「風魔法っ!?」
「ご名答ーっ!」
「そんなことに魔法を使うな!」
「いいからいいから」
 彼女はゆっくりと近づいて、その口に酒瓶を突っ込む。
「んぐぉっ!?」
「うぇぇぇい!」
 トゥーニャの掛け声とともに減っていく酒。赤くなっていくバート。酒の小瓶が空になるころには、すっかりバートは真っ赤のふらふら、さっきは立ったままサンドイッチを食べたというのに、あっけなくその場に座り込んでしまった。
「うええ……」
 そこまで酒に弱いわけではないバートだが、それなりに度数の高い酒を一気にあおったせいもあって、目を白黒させている。驚いたのは、隣にいたピア。彼女はバートの背中をさすり声をかけた。
「だっ、大丈夫ですかバートさん!」
「だいじょぉぶ……ふぅ……」
 明らかにそれまでとは様子が変わってしまっているが……本人が大丈夫と言っている以上はそれを信じるほかない。ピアはもう一度、彼の筋肉質な背中をやさしくさすり上げていた。
「おいおい、無理に飲ませるのはダメだぞ」
 ヴァネッサはやんわりと注意するが、彼女は彼女でどんどん杯が進んでいる。この場所での、この地での思い出が、その手をどんどん早くしているのかもしれない。
「……こうやって皆の活力を近くで感じられるってのは、何よりも幸せなことだったねぇ」
 彼女は、ぼそりとそうつぶやいた。医者としての喜び、ともにこの世界を生きる仲間としての喜び。この3年間を忘れることなど、決してない。……忘れたくても、忘れることなんて出来やしないのだ。
 彼女は一気に杯を傾けてからにすると、手酌で酒を注ごうとする。フレンはそれをたしなめて、代わりに注いでやった。
「おーい! 魚!」
 そこに、ようやく鯉をぶら下げたシャオが現れた。さっきまでは丸揚げの料理にするつもりでいたが、炭火を見た瞬間に「焼き物」に彼の中でスイッチが切り替わったらしい。さらに彼を加速させたのは、多くのものが持っている盃と、酩酊した顔。いきなり鯉を網の上にのせると、「酒っ! 飲みたいですっ!」と高らかに宣言したのだ。
「よぉし」
 上機嫌になっているフレンは彼にも酒を注いでやり、さらにちょうど杯の空になったラトヴィッジにも注いでやる。
「いやー、うまい酒に、うまい肉! 楽しいな!」
 的確に肉を焼き続け、食べ、飲み続けるラトヴィッジ。その顔には、幸せが宿っている。
「なあ、『究極の選択ゲーム』しよう!」
「究極の選択? なんです、それ」
 あづまが首を傾げた。
「お酒かお肉か? うーん、選べないなー」
 まだ1杯の半分程度しか飲んでいないメリッサ・ガードナーは、ニコニコと微笑んで、あづまと同じように首を傾げた。
「俺は、今は肉」
 アルコールのにおいのする息を吐きながら、バートが目をこする。
「違う違う! 究極っていったらやっぱり、犬か猫かだろ!」
 はいっ、と言って、フレンの顔を見る。
「ん、俺か? 俺は、犬かなあ……やっぱり、言うことをちゃんと聞くってのは可愛いもんだろ」
「犬ですか?」
 あづまは意外そうな顔をして彼を見る。メリッサも同意してうなずく。
「確かにー。猫に、『にゃーんにゃん』なんて隠れて言ってそう」
「誰がだ、誰が」
 フレンは困惑の表情を浮かべて、「お前はどうなんだ」とラトヴィッジを指す。
「俺? そんなの決まってる! 俺は、『選べない』!」
 彼の意気揚々と発せられたことばにフレンは首をかしげて、「何」とつぶやいた。
「どちらも良くて、どちらも良い! だから選べねえ!」
「お前、それ答えになってないんじゃないか?」
 はは、とヴァネッサが軽く笑うと、「細けぇことは気にすんなって! アッハッハ!」と、ラトヴィッジは楽しそうに大笑いする。
「ほらほらフレンさん、そんな険しい顔しない」
 ラトヴィッジの答えに呆然としているフレンのグラスはすっかり空になっている。そこにあづまは琥珀色の酒を注いでやった。
「ああ、これはどうも」
「はい、かんぱーい」
 注いだそばから、彼女はそれを空けるように求める。そう言われてしまっては飲まざるを得ない。角度をつけて、丸呑みにするように、酒を胃へと押し込む。
「はいはい」
 そして自分の杯も空にしたあづまが、「飲みましょう」とさらにフレンを焚きつける。
「いや、残りはまた今度のお楽しみに……」
「却下です!」
 フレンをぴしりといなすと、あづまは瓶を奪い取って自分の杯を満たす。
「とっておきの酒がなんです! いつ飲むのですか! 今でしょ!」
 そしてフレンの分も並々注いで、また高々と杯を掲げて「かんぱーい!」とはしゃいだ。
 あづまのカンパイラッシュに巻き込まれたものの中には、酒に弱いものも当然いる。……メリッサだ。
「なんか暑いー……」
 パタパタとシャツの襟元を扇がせると、豊かなバストが外にちらりと見える。
「メリッサ、脱ぎまーっす!」
 誰かが、えっ、と声を上げたが後の祭り。彼女はブラウスをぽいっと脱ぎ捨て、スカートをバサバサと広げて脚を露出した。だが、ご安心を。そこはもちろん乙女、チューブトップに一分丈のショートパンツを着ているのです。とは言え露出度の高い格好に、思わず男性陣の目線は注がれてしまう。
「ねー、みんな暑くないの? 女将さんもー。男爵さん『おっぱい大好き』って言ってたよ?」
「あらフレンさん、それはそれは……はい、もっと飲みましょうねー」
 あづまは笑って、さらにフレンの杯に酒を注ぐ――いや、それでも目は笑っていないが。
「ねー、女将さん、私にもー」
 彼女は杯を逆さにして、「もう入ってない」アピールをする。お客さん気分を味わうつもりだったあづまだが、やはりそこは性分か、あるいは酒好きの為せる業か。素早くメリッサの杯にも酒を足してやった。
「わーい! おさけー!」
 メリッサの歯止めは利かなくなり、どんどん酒を煽っていく。
「……大丈夫か?」
 物陰からその様子を見ていたのは、レイザ・インダーであった。彼は酔ったメリッサを止める、という役割を、彼女から直々に拝していたのである。
「あー、レイラちゃんだぁ~」
 メリッサは呂律の怪しくなった口で言うと、抱き着くように彼の腕の中へ。
「まだつるつるなのかー! 乙女のスネチェーック!」
 彼女は酩酊とは思えない速度でしゃがみ込み、彼のズボンの裾をめくりあげた。
「わー! レイラちゃんだ! まだレイザくんじゃないぞぉ!!」
 レイザの脚は、つるつるのぴかぴか。ムダ毛が1本も再生していない。
「すべすべー」
 彼は、酔っている彼女に手を挙げるわけにもいかず、ただ撫でられるがままにスネを撫でられている。
「まったく……誰だ、こんなになるまで飲ませたのは」
 レイザはそう言ってむくれる。
「レイザさん、ここは俺が引き受けましょうか?」
 トモシがそういうと、待ってましたと言わんばかりに、彼はトモシとバトンタッチする。
「あー、レイラちゃーん……トモコさんじゃなくてぇー……」
 彼女は寂しそうにそう言ったが、すぐにアルコールの睡魔に負けて、そのままスヤスヤと眠り始めてしまった。
「あ、レイザさん」
 その席を立とうとするレイザに、トモシは後ろから声をかけた。
「お代に、レイザさんの恋バナなんていうのを1つ教えていただけたら」
「は?」
 彼は燃えるように熱く、また何よりも冷たい目で彼をにらんだ。
「いや、その代償に命を、って言うなら結構ですよ?」
「……俺は女に忠告するだけさ。『火遊びのつもりなら気をつけな、遊びじゃ済まなくなるぜ』ってね」
 レイザは、ぼそりと吐き捨てた。
「ひゅー、さすがレイザ先生!」
 そのことばをフレンが煽る。レイザはトモシにだけ聞こえるような声量で「なんてな」と小さく笑って見せ、そのままログハウスへと向かって歩き始めた。
「……さすがは歩く殺し文句……」
 トモシはそう言って肩をすくめて振り返る。
「フレンさんは、奥さんになんてプロポーズしたんですか?」
「ん? 俺?」
 彼は酒のせいか、顔を真っ赤にして「んな昔のこと、忘れちまったよ」と言った。それから、がはは、と大きく笑う。
「ま、『おっぱい見せて』じゃねえことは確かだな!」
「はいフレンさん、酔っ払い過ぎです。もう一杯!」
 あづまは容赦なくフレンに酒を注ぐ。
「飲もう、今日は、飲もう」
 これでおしまいってわけじゃあないんだ、とヴァネッサが付け加える。
「またやろうじゃないか。こんな風に楽しくて、素敵な集まりを」
 その言葉に合わせるように、杯を掲げて上がる手が複数。上がらぬ手は、酔っ払ったガーダーの介抱をする少女と、あられもない姿の乙女を介抱する青年のものばかり。まだまだ、今宵は長くなる。


 第3章 バースト!

「ジスレーヌ……今日は君に、俺が鍋料理を振舞おう」
 ヴォルク・ガムザトハノフがほほ笑むと、ジスレーヌ・メイユールが驚きの声を上げた。
「料理、できるの?」
「当たり前だ……俺が一体何百回……いや、何千回女将の料理を食べてきていると思っているんだ? 旨いものを食べることで、それを再現することが出来るようになるのだ」
 正しいような、それでいてまるで見当はずれのような……。しかし彼はそれにずいぶんの自信があるようで、「任せろ」と鍋の柄を握った。
「さあ……中華の基本は、火力……見ていてくれ、俺の風魔法……!」
 ヴォルクの言葉に呼応するように、ぶわっと火の粉が舞い上がる。それまでとは比べ物にならないような強烈な火力がなべ底に当たる。
「さあ、作るぞ……至高の炒飯を……!」
 彼が持っているのは中華鍋。……中華鍋で作る料理は『鍋料理』とは言わないと思うのだが……まあいい。どうせ言っても、こうなってしまったヴォルクは誰にも止められないのだ。
 手首の返しに合わせて、溶き卵をまとって黄金色に輝く米粒が宙を舞う。小さく切られた叉焼から染み出した脂が焦げ、あたりに得も言われぬ幸せな匂いを放ち始めると、彼は大きなおたまでそれをとりわけ、平皿へと盛りつけた。どこからともなく鳴り響いた銅鑼の音は、本格中華が作り出した幻想か。
「さあ、召し上がれ」
 そうしてジスレーヌの前に置かれた炒飯は……彼女の姿を隠してしまうほどの量。
「……いただきます」
 スプーンを手に取り、一口。
「……っ……! なんですか、この美味しさは……!」
 目を見開き、思わずスプーンを落としかけるジスレーヌ。とてもこの少年が作ったとは思えない……まるで、東洋の熟達したシェフが作った、芸術品のような気品さえ感じる……!
「料理とは、愛情なのだ」
 ヴォルクはさらに、無臭ニンニクを贅沢に使った餃子も添える。
「俺から君への愛情が詰まっている」
「……こ、こんなには食べきれませんよ……!」
 ヴォルクのことばに、思わずジスレーヌは笑って、それからもう一口、手を付けた

「……ログハウス……鍋……最期の晩餐……うっ、頭がっ……」
 アウロラ・メルクリアスは、いつかのことを思い出して冷や汗を流した。そしてリック・ソリアーノの顔を覗き込んで、「でも、今日は大丈夫だよね?」と確認した。
「もちろん……多分だけど」
 リックの顔には、どこか自信がない。それもそのはず、心配しているアウロラが持ってきている肉は、どこからどう見てもヘビだ。ぶつ切りにしてあるにもかかわらず、丁寧にお頭付きなのである。
「ほら、これから出汁が出るから」
 そういうことを言いたいのではない。だが、リックは「何を持ってきても入れる」と言ってしまった手前、否定することもかなわず、ただその肉が、どぽどぽと音を立てて鶏ガラスープに落ちていくのを見つめていた。
「お肉ー!」
 どことなく幸せそうな彼女だが、リックには不安しかない。そして、もう1つの不安の種。
「ウィリアムさん、その『肉』っぽいものは……」
「ん、これか? 肉だが」
「肉なのはわかるんです」
 うっすら白く筋張った塊は、どこからどう見ても動物の筋肉だ。問題はその大きさ。明らかにリックがこれまで食べたことのある肉とは比べ物にならに程小さい。
「何の肉かっていう、ね?」
「まあ、気にするな」
 リックの不安を握りつぶすように、彼は皿をひっくり返して鍋にすべて入れてしまった。
「煮えりゃ食える」
 そのことばが、余計にリックを不安にさせる。
「お、今日は女装してないのか?」
 ロスティン・マイカンがイスに体を預け、ウィリアムを見ている。
「あ? なんのことだよ」
 彼は肩をすくめて笑う。
「ウィリアンヌちゃんは今日もどこかでアイドルやってんだよ、人違いだ」
「もうその名前が出てる時点でどうかしてんだよ」
 そう言って2人は笑いあうと、改めてお互いが持ってきた食材を確認する。……とはいえ、ウィリアムの持ってきたものはすでに鍋の中だが……。
「……で、これ入れたの?」
「ああ。何か問題が?」
「問題しかねえよ」
 ロスティンはまだ生煮えの肉を匙で掬い上げると、「ナンノニクカナー」と棒読みで言った。
「獲れたてだ、何の問題もない」
「鮮度の話じゃない! コレどうみてもアレだろ!」
「アレ?」
「ほら、チュー、ってアレ!」
「ああ、ネズミか。その通りだ。よく分かったな」
「感心してる場合か! 大丈夫なのかよコレ!」
 その肉の正体を聞いてしまってショックを受けたのは、マーガレット・ヘイルシャムである。彼女は「あ、ああ……」と力なくうめき声をあげた。ついさっき再開を喜ぶ抱擁をしたはずだったが、もしかしたらさっきのが人生最後のハグになるのかもしれない。
 もちろん、よりインパクティブだったのはネズミだが、彼女にとってはヘビ肉だって充分すぎるほど衝撃が大きい。それに……。
「マイカン卿」
 彼女は震える声でその名を呼んだ。
「なに?」
「そのパン、まさかお鍋に……?」
「え、そうだけど?」
 ぽいっ、と彼は放るように鍋にパンを入れた。その表面には、うっすらと薄緑色の「ぽやぽやしたもの」が付いていたのだ。いくら貴族とは言え、カビくらいは見たことがある。
 マーガレットの頭の中に、あるフレーズが浮かび上がってきた。それは、いつか本で読んだことのあることば。ある部族の戦士たちが、戦いに赴く前に言うことば。
『今日は、死ぬにはいい日だ』
 ……ああ、バート。ごめんなさい。私、一足先に逝くかもしれません……。
 彼女は続けて、心の中でそうつぶやいた。
「で、マーガレットは魚か」
 ウィリアムが目をぎらつかせて、彼女の持ってきたそれを見る。
「まともな食材と言われる魚さまだぁ? さすが貴族、格が違うな」
 彼はそういうと、彼女のまだ何も手のついていない皿にネズミ肉を取り分けて、「ほら、ネズミ食っていいぞ」と差し出した。マーガレットの目は泳ぎに泳ぐ。
「まあ、ネズミなら食べられるでしょ」
 アウロラはニコニコとしながら、「さ、食べよ食べよ」と言っている。……いや、確かに前回の鍋に比べたらかなりマシだとも言えるのは間違いない。少なくとも「食べられそうな見た目」にはなっている。マーガレットの魚は、まるで略取されるかのごとき形で投入されているが、それもまた見た目の良さを増している。
「ヘビは問題なく食べられる。むしろ良質なタンパク源とさえ言える」
 ウィリアムもアウロラを擁護する。
「さ、よそってあげるよ」
 アウロラがロスティンの皿に手を伸ばそうとしたとき、「あ、いや」と彼は手で拒絶を示した。
「俺はパス。ネズミは流石に食えねえ」
 そう言って、ロスティンは自分のカバンからサンドイッチを取り出すと、それにかぶりついた。
「えー、せっかくのお鍋なのに!」
 それまで、自分の釣った魚も入れて、ただ鍋の中をじっと見ていたマティアス・リングホルムは、恐る恐るそれを自分の皿に少しだけ取る。彼の鼓動が早くなっていく。こんなもの食べて、本当に命に別状はないのか。そもそもこれが食品として大丈夫なのか。……緊張の中、彼はゆっくりと手をつける。
「……あー……」
 そして、眉間にしわを寄せ、「ギリ……ギリ行ける」と、極めて微妙な判定を下した。
「泥臭くて、なんかいろんな味が混ざってて……漢方みたいだけど……うん……毒はないと思う……多分!」
 マティアスの声に、ウィリアムが「よーし」と言った。
「死ぬにはいい日だ」
 ついさっきマーガレットがそう思った通りに、彼も口走った。
「『最期の晩餐』がこんな思い出になるなんてな。ほら、もやし貴族、皿を寄越せ」
「え! 嫌だよ俺死ぬのはまだ早いって! ほら、サンドイッチでおなかいっぱいだしね? ね?」
 ロスティンは強く拒絶したが、アウロラの手が伸びて、嫌がる彼のお椀にも容赦なくネズミとヘビがよそわれる。
「いっぱい食えよ」
 彼は手と声を震わせながら、「いた、だきます……」とつぶやいた。
「大丈夫大丈夫! 前のよりひどいことなんてないから、絶対」
 アウロラのその目は、あまりにも本気である。
 マティアスは「いるか?」とベルティルデ・バイエルの顔を見た。
「あ、はい……」
 控えめだが、彼女は少し期待しているような表情にも見える。それはきっと、ちょっとした冒険心。これまでの常識をぶち破る、小さな殻の内側から外へと飛び出していこうとする、このマテオ・テーペの民のように無垢で、無謀にも思える挑戦とも重ね合わせられる。
 ベルティルデが差し出した椀を受け取ったマティアスは、できるだけ自分とマーガレットが入れた魚を多めによそう。ネズミとヘビは控えめに。パンは……さすがに疑惑とは言え、カビたパンを食べさせるわけにもいかないので、気付かれないようにその椀からは排除した。
「まったく、すげえもん入れるよな……」
 彼はベルティルデに聞こえないようにぼそっとつぶやいて、それから彼女にそれを差し出した。
「……毒はないと思う、多分……」
「大丈夫、『一蓮托生』です」
「大丈夫なのか、それで……」
 マティアスのツッコミの上をいくベルティルデは、さらりとネズミを口に。
「……んー、かたくて、食べづらいですね……」
 彼女は苦笑いして、「でも、こうしてみんなと食べてるからか、なんだかおいしく感じる気がします」と言った。
「気のせいだろ」
 思わず、ベルティルデの横にいたリベル・オウスが口を挟んだ。
「まあ、確かに食えないもんじゃないが……あんまりいいとは言えねえよな。まず、野菜が足りねえ」
 そう言って彼が入れたのは、青菜のような見た目の薬草。鍋の香りが一気に変わり、心なしかスープのよどみが解消されたようにも見える。
「ところで、ベルティルデは何を持ってきたんだ?」
「あ、わたくしですか? わたくしは……」
 彼女はカバンをがさごそとと明後日、その中から茶色の葉っぱのようなものが詰まった瓶を取り出した。
「これを」
「……これは?」
「紅茶葉です」
「却下だ」
「なっ!!」
 リベルの即答に、思わずベルティルデは声を失う。だが、目に力を入れ、彼に食ってかかる。
「ヘビさんやネズミさんはよくて、紅茶はダメなのですか!」
「ベルティルデ、よく考えろ」
 リベルは彼女の肩をたたき、その目をじっと見つめた。
「紅茶を飲むのは、どんなときだ」
「……ええと、お菓子を食べるとき、ですか……?」
「そうだ」
 リベルの指が、鍋を指す。
「あの肉や魚と一緒に、紅茶を飲むか?」
「飲まないですね……」
「そういうことだ」
 シュンと小さくなるベルティルデに、彼は小さく息を吐いて、「それは、食後にみんなで飲むことにしよう」と提案した。彼女はそれを聞いて嬉しそうに、「はい」と返事をする。
 ……もしかして、前回の鍋を大変な『何か』になったのも、彼女のこの思い切りが良いところに、その1つの原因があったのではないか?
 リベルはふと、そんなことを思った。
「わたしが入れたのはこれだから……安全だよね?」
 イリス・リーネルトがそう言ってリックに見せたのは、軽く表面をフライしてある肉団子。少なくとも肉系食材の中では最も「普通に食べられそうな」ものである。
「スープが問題なければ、だけど……」
 そう言ってリックはニヤっと笑った。少なくとも数人が食べて「いけなくもない」というような判断をしている以上は、多分大丈夫である。
「じゃ、はい、あーん」
「えっ、あ、は、恥ずかしいよ……」
 リックは急にイリスが差し向けた矢に顔を赤くして、目をそらした。
 そこに疲れた様子のレイザ・インダーがやってくる。彼はついさっき、外で泥酔していたメリッサの相手をしてきたばかりである。ぐったりしているのはそのせいだろう。
「あっ、レイザ先生!」
 アリス・ディーダムが声をかけると、彼は驚いた様子もなく顔をあげる。
「先生! お鍋です!」
「鍋……」
 レイザの心の中にも、何かトラウマめいたものが残っているに違いない。一瞬、彼の眼がよどんだような気もしたが、この前に比べれば格段にマシな匂いが充満する部屋に安堵したのか、ふっ、と小さく微笑んだ。
「一緒に食べませんか?」
 彼はわずかに逡巡したが、それでも意を決し、「ああ」と返した。
 アリスの横の席に座ると、「それで、これは食べられるんだろうな」と早々に質問する。
「ええ……多分」
「多分とはどういう意味だ」
 彼女の疑問の混じる答えに思わずツッコミを入れて、彼はアリスの前に置かれた椀を覗き込む。肉団子のようなものと、魚のようなものはわかる。そのほかにちらちらと見えている、得体のしれない肉片のようなものは……? 味が染みていそうな見た目はしているが……。
「ふーっ、ふーっ……」
 アリスは、レイザが疑問に思った肉片を掬い、息を吹きかけて冷ます。それから、「はい、あーん」と、イリスがさっきリックにしたのと同じようにしてみせた。
「……自分で食える」
「いいから、先生?」
「いや……」
 アリスの期待に満ちた目を裏切ることができず、レイザは、「1回だけだぞ」と言って口を開け、その匙の上の肉を迎え入れる。
「……美味しいですか?」
「んー……まあ、悪くはないな……思っていたより」
 リベルの薬草が効いているのか、最初に食べた者たちの「泥臭い」という感想はなく、むしろ警戒に対して驚くほど食べ口の良い仕上がりとなっているらしい。
「もしお疲れでしたら、私の膝、枕としてお貸ししますよ?」
 レイザはアリスから目をそらし、「いや、それには及ばない」と、少し頬を染めた顔で返した。
 具が減ってきたところに、コタロウはさらに魚を投入。ヘビやネズミの肉はほとんど取りつくされ、パンもいつの間にか崩れてスープと一体化している。混沌としてスタートした鍋が、いつの間にかどこか上品な仕上がりの鍋へと変身している。鶏ガラスープというよりは、濃厚な魚介出汁の聞いた塩スープという印象である。……残念? そんな馬鹿なことを言ってはいけない。おいしい鍋になったのだから。
「ベルティルデちゃん、この前の鍋の時は大丈夫だったんだっけ?」
 彼は魚の切り身が煮えていくのを見ながら、声をかけた。
「ええ、わたくしは」
 彼女の答えはもちろん、そのとき『大丈夫じゃなかった』人間がいるということを示していた。
「しかしなあ……」
 彼は鍋を自ら一度味見し、問題がなさそうであることを確認して、ベルティルデにもう1杯よそってやる。
「こうやってみんなで楽しくワイワイと盛り上がれて、本当に楽しかったなあ」
 リックは、うんうん、と小さくうなずいている。
「僕は借り物競争が楽しかったかなあ……まさかあんな風に盛り上がるなんて、思ってもみなかった」
「わたしはリックの『にゃ~ん』な姿も、結構好きだったよ?」
「あっ、あれは恥ずかしかったから……」
 イリスの言葉に耳を赤くして、リックは目を伏せた。
「意外と知っているようで知らなかったこの土地のことを、もっといっぱい知ることができたというところでは、ピクニックも楽しかったみたいですね……わたくしは皆さんとは行けませんでしたけど……」
 ベルティルデは少し切なそうに続ける。
「七夕にみんなで書いた短冊……わたくしのものは、まだ叶ったのか叶っていないのか、はっきりとは分かりませんけれど……でも、きっと……」
 彼女が膝の上で握るこぶしに力が入る。
「ダンスパーティーでリックと一緒に踊れて、わたし、本当に嬉しかった……楽しいことも、大変なこともいっぱいあると思うけど……でも、わたし、リックと恋人になれて、本当に幸せなんだ」
 彼女は、リックに寄り添う。
「これからも、一緒にたくさんの思い出を作ろうね」
「……うん」
 少年は恋人の手を取り、その頭に頬を寄せた。
 ……コタロウはこれまでの感謝を述べようと思っていたが、今だけは少し野暮かもしれない。若い2人が少し落ち着いたら、その時に、「ありがとう」を伝えよう。

 まだ明けないマテオ・テーペの宵闇の中で、このログハウスの周辺だけがぼんやりと明るく、希望に満ちた無数の光を放っている。

 



ご参加くださりありがとうございます、ライターの東谷です。
イベントシナリオも、とうとう今回で最後となってしまいました。
私はメインシナリオの執筆はほぼゼロ(メイン/サイドの第1回で少しだけご協力したのみ)だったので、本当にこうして皆さんと、ただただ楽しい時間を過ごさせていただきました。
皆様の、そしてこの『マテオ・テーペ』の前途を、『希望に満ちた無数の光』が照らしていますように。

最後になりましたが、改めて半年以上の長きにわたり、大変ありがとうございました。
メインはもう少し続くようですが、私はここで1度お別れです。黙ってこの世界の行方を見守らせていただきます。……どこかでふと帰ってくるかもしれませんが。
本当にお世話になりました。また、いつかお会いできる日を心待ちにしております。